宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

TVアニメ『宇宙よりも遠い場所』
いしづか監督インタビュー

いしづかあつこ

愛知県出身。映像作家、アニメーション監督。マッドハウス所属。
「月のワルツ」のアニメーションで監督デビューを果たす。主な監督作品は「さくら荘のペットな彼女」「ノーゲーム・ノーライフ」「ハナヤマタ」など。監督業のほかにイラストやキャラクターデザインまでこなすマルチクリエイター。



徹底した取材によってファンタジーを現実に

ーーまず最初に、「女子高生が南極へ行く」というアイデアはどこから生まれたんですか?

いしづか:TVアニメ『ノーゲーム・ノーライフ』を作っている際、「次は女の子たちが頑張る青春ストーリーが作りたい」という話をしていて、それが直接のきっかけですね。ただ、すでにさまざまな女子高生アニメが作られているので、どうせなら私たちも体験したことのないことだったり、行ったことのない場所を描いてみたいなと思ったんです。それで、「行ったことの無い場所……南極?」みたいな感じで決まりましたね(笑)。

ーーでも南極って、遠すぎてちょっと現実感が湧きませんよね。

いしづか:そうなんですよ。南極の端っこだけ観光するという形ならいくつかの方法は存在するんですが、現実で南極に行くには南極観測隊に参加するか「しらせ」の乗組員になるしかないんですよね。どうすればキマリたちのようなごくふつうの女子高生が南極に行けるのか、いろいろと考えました。最終的に、もしかしたら現実にも起こりうるんじゃないかっていうリアリティはキープしたつもりです。

ーーたしかに。第一話の最後に登場した「しらせ」も含めて、南極にまつわる描写はかなりリアルですね。

いしづか:すごく取材しました(笑)。海上自衛隊や国立極地研究所の方々にはたくさんのご協力をいただきましたし、実際の「しらせ」にも乗せていただきました。じつは「南極にも行きたい!」って駄々をこねたんですけど、さすがに無理でした(笑)。

ーー南極の描写は写真や動画などの資料を元に作られているんですね。

いしづか:はい。写真やビデオなどのビジュアル資料はたくさんいただきましたし、昭和基地の中を歩き回れるサイトなどもあるので、ある程度リアルな描写も盛り込めていると思います。

ーーそれは放送が楽しみです。ではもっとも苦労したのはどんなところでしたか?

いしづか:基地での生活全般です。観測隊の隊員たちは朝起きたらどこで顔を洗うのか、ふだんはどんな会話をしているのか、寝るときの服装は? 毛布は何枚? 娯楽は? など、資料からは見えてこない生活の疑問が次々と湧いてくるんです。

ーーそれはどうやって解決していったんですか?

いしづか:実際に南極で生活された観測隊OBの方々に取材するなどして、ひとつひとつ解決していきました。この取材は本当に楽しくて、いろいろなお話を伺っていくにつれて、どこかぼんやりとしていた南極での生活風景が、どんどんと鮮明に、現実のモノとなってきて、これなら描けるぞと確信が持てるようになりました。


4人全員負け犬でポンコツ。そんな彼女たちに共感して欲しい

ーーキマリ、報瀬、日向、結月の4人のキャラクターはどうやってでき上がっていきましたか?

いしづか:何かをしたい気持ちはあるんだけど、なかなか一歩を踏み出せないキマリは、多くの人が共感できるキャラクターだと思います。とは言え、余りにヘタレ過ぎるととても南極なんて大それた場所へは辿り着けませんよね(笑)。だからキマリは一度動き出したら止まらないというような、明るくてちょっとおバカな性格になりました。報瀬はいっけんクールに見えて全然クールじゃない。熱量はやたらと高いけど、いろいろなところが残念な子なんです。この2人が組んだだけではまだまだ南極に行けそうもないので、しっかり者の日向が入って2人を支えてあげる。結月はそんな3人を、さらに俯瞰から冷めた目で見るという図式です。ただ日向や結月も含めて、この4人は基本的に負け犬でポンコツなんですよ。本気で南極を目指そうとするくらいですから、それなりにみんなおバカなんじゃないかと思います(笑)。それぞれ欠けた部分が多い4人がひとつになって補い合うからこそ、南極に行く事ができるんじゃないかなと思います。

ーー4人のあいだに生まれる友情や関係性にも注目ですね。

いしづか:最初こそ女子高生らしい感じがあるんですけど、話が進むに従ってどんどん生活感が滲み出てくるのが面白いなと感じます。例えば、辛いことがあったときに「ねえ聞いて聞いて〜」と共有し合うのではなくて、彼女たちはあえて何も言わなかったり、聞かなかったりします。相手を放っておくことのできる優しさや、信頼して何も言わない優しさ、女子高生としてはちょっと珍しい関係性を、彼女たちは自然と築き上げていくんです。友だちというより、家族に近い存在になっていくんですよね。

ーーなるほど。たしかにフワフワした雰囲気や関係性では、とても南極では生活できないですもんね。

いしづか:そうですね。文明から隔離された空間で過ごすわけですからね。南極から帰ってきたあと、仮に彼女たちが再び集まることはなかったとしても、それでも一生親友だと断言できるくらい濃密な時間になると思うんです。そこをしっかりと描きたいというのが、本作の大きなテーマでもあります。


南極生活が嘘にならないよう、日常生活をしっかりと描く

ーー本編では南極を目指すまでの過程もしっかりと描かれています。キマリたちの日常生活もとてもリアルで、生々しい感じがしますね。

いしづか:日常の描写が嘘っぽいと、南極のリアルな描写が生きてこないと思い、学校や街並み、繁華街などはロケハンして生活感がでるよう心がけています。序盤のオススメは、第1話なら女子トイレ、第2話だと新宿の繁華街です。美術さんにはかなり無茶を言っちゃって申し訳ないのですが(笑)、めっちゃクオリティの高い背景になっていると思いますから、ぜひチェックしてください。

ーー国内と南極の描写では、雰囲気が違ったりするんですか?

いしづか:もちろん雰囲気は違います。高温多湿な日本とは違い、極地付近はもっと空気が澄み切っています。そういう空気の質感や色味が変化していく感じも何とか表現したいと思い、日本と海外で色設計を変えているんです。かなり贅沢なことだし大変なんですけど、どうしてもやりたかったんです。

ーーこだわってますね! 海外に飛び出していくキマリたちが早く見たいです。

いしづか:そうですね。でもそのためにはまず南極観測隊の一員にならないといけないですよね。まずは彼女たちが出会い、お互いを信頼し合い、夢を実現させていくドラマに注目してください。


初出:『月刊ニュータイプ』1月号(2017年12月発売)
※誌面のインタビューの未掲載内容を再編集しました。

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