宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

STAGE09

しらせでの生活について 
広報さんに聞きました! Part2

小濱広美さん

国立極地研究所
広報室 副室長

(プロフィール)
アニメ制作にご協力いただいた極地研の広報担当。自らも南極経験があり、第52次南極観測隊で庶務・情報発信担当として参加している。


ヘリの準備が始まると、観測隊は本気モードに覚醒!?

ーーアニメ第9話では、砕氷艦しらせの本領発揮とも言える「ラミング」が描かれました。実際にラミングを体験した際の印象はいかがでしたか?

小濱:最初の印象は「うるさい!」でしたね。

ーーそれは、氷が割れる音ですか?

小濱:いえ。エンジン音ですね。通常航行時に比べ、ラミング時はより多くの電動機が駆動しているんですよ。その機関部が船室エリアの真下にあるので、余計に大きく聞こえるんです。

ーーなるほど。揺れや衝撃はどんな感じなんですか?

小濱:揺れ自体はそれほどないですね。第8話で描かれていた暴風圏の航行時のほうがずっと大きいです。ラミングが始まるのは「定着氷域」という、一面に氷海が広がる海域ですから、そこまで来ると逆に波は荒れません。ただ、船が一度バックして氷に衝突する瞬間は「ゴンゴンゴン!」っていう独特な音がしますし、それなりに揺れますね。

ーーそれが1日中というか、何日も続くわけですよね。

小濱:そうなんです。なので、最初こそ音や衝撃が気になっていたものの、最終的には何も感じなくなっていきます。気にしていたら生活できませんからね。

氷海を進む「しらせ」

ーーそれにしても、見渡す限り氷海というのは絶景ですよね。やっぱり感動しましたか?

小濱:もちろん感動もするんですけど、それよりも不思議な感覚を覚えました。氷山とか、触れられそうなくらい近くにあるように見えて、実はすごく遠かったり。初めて目にする光景だらけで、遠近感やスケール感がおかしくなっちゃうんですね。

ーーなるほど。景色というと、フリーマントルを出港してから南極に着くまで、どう変化してくるんですか?

小濱:そこはアニメと同じで、最初は流氷や氷山がポツポツと出てきて、日ごとにその数が増えていく感じですね。空を飛んでいる鳥も変化してきて、観測隊には生物学者もいるので「あれは○○だね」とか教えてもらったり。その後、だんだんと海の表面が凍ってきて、ついにラミングが必要な定着氷が出現するんです。ここまで来ると見渡す限りの氷海になるので、隊員たちも艦首に集まって、しらせが氷を粉砕している瞬間を間近で見たり、写真を撮ったりしていました。

ーーキマリたちは氷床に降り立っていましたけど、隊員の皆さんが「南極に着いた!」と感じる瞬間はいつですか?

小濱:艦内に格納してあるヘリの整備が始まるタイミングですかね。ラミングが続くなか、途中から昭和基地へ飛び立つヘリの点検や試運転が始まるんです。船から見える景色は変わらず氷海ばかりなんですけど、ヘリが動き出すと「あ、もう基地が近いんだ」ということを実感します。それまでのんびり構えていた隊員たちも、急にキリッとしてかっこ良くなります(笑)。

ーー船から昭和基地や南極大陸が見えたりするわけではないんですね。

小濱:見えないです。南極大陸から数十キロ離れた沖合からヘリで飛び立ちますから。もっと言えば、昭和基地は東オングル島という島にあって、厳密に言うと南極大陸ではないんですよ。

ーーええ!? てっきり南極大陸に基地があるのかと思っていました。

小濱:とは言え大陸からは4kmほどしか離れていないので、基地からは大陸のラインも見えますし、氷が溶けてしまう夏以外は歩いて本島へ渡れるんですよ。もちろん、ルート工作など安全管理をしっかりしなければならず、簡単に行ける訳ではないです。

ーー小濱さんは、しらせでの航海を振り返ってみて何がいちばん印象的でしたか?

小濱:私の場合、隊員の生活を管理するのも仕事のひとつだったので、とにかく「忙しかった」という記憶しかないです。特に帰りのしらせでは、隊員の皆さんはもう自分の仕事をやり切っていますから、どんどん生活がだらしなくなっていくというか(笑)。

ーー燃え尽きた状態なんですね。

小濱:そうなんです。行きは準備などでそれなりに忙しいのですが、帰りはやることもないですから、ずっとはしゃいでいますね。なので、隊員の中には帰りの航行でドーンと太っちゃう人もいます。南極生活でせっかく引き締まった体型になったのに(笑)。

ーーそれはもったいないですね。素敵なお話をありがとうございました。



写真協力:国立極地研究所

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