宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

STAGE08

しらせでの生活について 
広報さんに聞きました!

小濱広美さん

国立極地研究所
広報室 副室長

(プロフィール)
アニメ制作にご協力いただいた極地研の広報担当。自らも南極経験があり、第52次南極観測隊で庶務・情報発信担当として参加している。


できれば公にはしたくない「耐寒訓練」とは?

ーーいよいよフリーマントルを出港したキマリたちですが、観測隊員の皆さんは、主にしらせではどんな生活を送られているんですか?

小濱:船の運行については海上自衛隊の乗組員の方々にお任せなので、観測隊員は主に上陸前の準備作業ですね。例えば野外調査のチームは南極基地についたらすぐに出発するため、積み込んだ食料を携行できるレーションとして小分けしたりします。ただ基本的には自由行動なので、余裕があれば昼からお酒を飲む事もできるんですよ。

ーー隊員全員での全体行動というのは特にないんですね。

小濱:毎日夕食後に全体ミーティングがあり、それには全員が参加しますね。また夜20時になると「巡検」と言って、しらせの乗組員が艦内の点検のために巡回するのですが、この時間だけは自室から一歩も出てはいけないルールがあるんです。「巡検」が終わるとまた出て行って、別の部屋で飲んだりする隊員も多いですね。

ーーアニメでは「艦上体育」でみんなが甲板を走っていました。

小濱:これも実際にあります。ただ全員がランニングをするわけではなくて、キャッチボールをしたりサッカーをしたり、飛行甲板でスポーツをする隊員も多いです。なかには剣道の防具を付けて、ひとり黙々と竹刀を素振りしている人もいました。

実施の艦上体育の様子

ーーあはは。でもボール競技だと、勢い余って外に飛んでいっちゃいませんか?

小濱:そうなんです。だから力加減をセーブしてプレイしているんですけど、それでも外に跳んでいってしまうこともあるので、用意したボールが減っていくにつれどんどん動きが大人しくなっていきます(笑)。

ーー皆さん、思い思いに運動しているんですね。

小濱:そうですね。あと全員参加で「耐寒訓練」という訓練イベントがありますね。

ーーどんなイベントなんですか?

小濱:全員が艦上で水着になって寒さに耐えるという訓練です。

ーーそれは、めっちゃ寒そうですね。

小濱:それでもみんな楽しそうなんですよ。毎年の恒例行事で、伝統的なしきたりなのか、男性はふんどしを持参する人が多いです。みんなふんどし一丁の格好で隊列を組んで歩き回ったり、さらにはホースで水を掛け合ったりしていますね。

ーー……うわぁ。

小濱:引きますよね(笑)。その時はテンションが上がってすごく楽しいんですけど、改めて冷静になるとちょっとキツい絵ですね。

ーー見てみたいような、恐いような。

小濱:ふだんは威厳のある偉い先生たちもたくさん参加していますから、隊員たちの名誉のためにも耐寒訓練の写真はあまり表に出さないようにしているんですよ。

ーーたしかに、そのほうが良さそうですね(笑)。

観測隊員でも「船酔い」には悩まされる?

ーーアニメ第8話では船の揺れや船酔いも印象的に描かれました。実際もやはりすごい揺れなんですよね?

小濱:そうですね。今のしらせはかなり性能が上がっていて、私が南極へ行った際は最大でも19度の傾斜でした。ちょうどその時は4階の通信室で定時交信するところだったのですが、突然イスごと部屋の端までツツーと流されて、その瞬間に胃から思わずこみ上げてきて、ダッシュで1階にしかない女子トイレに駆け込みました(笑)。直後にダッシュで4階に戻って、何事もなかったかのように定時交信の続き、でした。

ーーひえぇ〜。大変ですね。

小濱:幸いなことに、私はそれ以外では船酔いとはほとんど無縁だったのですが、船酔いに悩む隊員は多かったですね。ヒドい時にはドクターのお世話になる人もいますし、はたまた「おへそに梅干しを置くと楽になるらしい」とか、よく分からない俗説を片っ端から試している人もいました(笑)。いずれにせよ、どれだけ辛くても船から下りることはできませんから、もうひたすらに耐えるしかないんです。

ーーキマリたちのように、ある意味で開き直るしかないんですね。では揺れない大地を踏みしめた瞬間はさぞホッとしますね。

小濱:それが、基地に着くと今度は「丘揺れ」が起きるんですよ。ただ、こっちのほうは気分が悪いというよりもフワフワとして不思議な感覚になるんですけど。

ーー「船酔い」に「丘揺れ」ですか。本当に過酷な旅なんですね。今日はありがとうございました。



写真協力:国立極地研究所

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