宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

STAGE05

「しらせ」の出港について 
ベテラン幹部に聞きました!

2等海佐 岳本宏太郎

防衛省 海上幕僚監部 防衛部 運用支援課 南極観測支援班長

(プロフィール)
第56次、第57次、第58次の南極地域観測協力行動に参加。これまでに運用長、航海長、副長を歴任しており、南極の海を知り尽くすベテラン海上自衛隊幹部。


「しらせ」乗組員は全員が希望者。出港時は涙の別れも

ーーアニメの第5話では、キマリたちが出国するまでの様子が描かれました。観測隊の皆さんが「しらせ」に乗船するのは、日本ではなく、オーストラリアなんですね。

岳本:そうですね。昔は日本からいっしょに乗艦していましたが、今はオーストラリアのフリーマントルという港街で乗り込むようになりました。我々は「しらせ」の乗組員ですから、観測隊よりも少し早く、11月中旬ころに東京の晴海を出港して11月末にフリーマントルに到着、そこで観測隊員の皆さんの乗船に備えるというスケジュールで動いています。

ーーそうなんですね。「しらせ」が多くの人に見送られながら出港する様子をニュースで見たことがありますが、この時点では海上自衛隊の乗組員の方々のみが乗艦しているんですね。

岳本:はい。観測隊の方々といっしょに出港していた時代は、紙テープなどを使って盛大に祝っていましたが、今はもう少し地味な出港ですね。紙テープも後片付けが大変なんですよ(笑)。見送りに来ているのは海上自衛隊の関係者、乗組員の家族や関係企業の方々が多いですですね。

昨年11月の出国行事の様子

出港するしらせ

ーー11月中旬から4月中旬まで、約5カ月間日本を離れるわけですから、やっぱりすごく寂しいですよね。

岳本:そうですね。出港直前に艦内で別れの時間を設けているんですが、乗組員や家族が涙している姿も見かけますね。

ーー分かります。岳本さんも泣いちゃったり?

岳本:いやぁ、うちはもう慣れっこですから、淡々としたものです(笑)。

ーー乗組員の方々は、自ら希望されて「しらせ」に乗船されるんですか?

岳本:海上自衛官は毎年、希望する配属先を第3希望まで出します。その第3希望までの中に「しらせ」の配属を希望した者から選抜するシステムです。南極に対する思い入れは人それぞれだと思いますけど、中には「しらせで南極へ行きたい」という憧れから海上自衛隊に入ったという乗組員もいるほどで、やはり希望者は多いですね。

ーーへえ〜。それはスゴいですね!

岳本:一度行った事でますます南極に魅せられる者も多く、今回の協力行動で8回目になる乗員もいますね。

ーーなるほど。最近だと女性の乗組員も多いと伺いました。

岳本:そうなんです。56次までは医官の女性がひとりでしたが、57次から増えて、現在南極に行っている59次は乗組員179人中11人が女性です。しらせも、どんどん女性が活躍する場になってきています。

乗組員と観測隊の関係性は、ゲストであり仲間でもある!?

ーーアニメでは「しらせ」の乗組員も民間人ですが、実際の「しらせ」の乗組員は海上自衛官です。任務の中心は、観測隊の皆さんや物資を無事に南極に送り届けることなんですよね。

岳本:そうですね。「しらせ」での航海中は、我々からすると任務ですから、観測隊の皆さんとは居住区も別ですし、基本的に食事も別で取ります。そういう意味ではゲスト(乗客)とも言えますが、海洋観測などの際はみんなでいっしょに作業をしたり、コミュニケーションもかなり密に取りますからね。立場は違えど、仲間や同志のような感覚もあるんです。

ーー観測隊と別行動ということは、乗組員の皆さんは昭和基地までは行かないんですか?

岳本:行きます。基地での支援作業もありますし、「昭和基地に行く」というのは、乗組員にとっても大切なイベントのひとつなんです。特に「しらせ」は出港してからずっと洋上にいるという、かなり特殊な運用ですからね。

ーーたしかに、ふつうはどこかの港に停泊しますよね。

岳本:そうです。何の施設もない南極での洋上暮らしが続くと精神的にもストレスが溜まっていきますから、リフレッシュの意味合いもあるんです。

ーー船乗りならではのストレスもあるんですね。では最後に「しらせ」での南極航海の魅力や醍醐味ってどこにあると思いますか?

岳本:これまで見た事のない景色が見れたり、誰も通ったことのない世界へと分け入って進んでいけること。これが、世界でも有数の砕氷艦である「しらせ」で南極を航海する醍醐味です。僕自身も初めて南極に辿り着いた時にはすごく感動しましたし、ぜひまた「しらせ」で南極へ向かいたいと思っています。

ーー貴重なお話をありがとうございました!



写真協力:海上自衛隊

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