宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

STAGE02

「南極観測隊」って何? 
ベテラン隊長に聞きました!

本吉洋一さん

国立極地研究所
教授 広報室長

(プロフィール)
第23次隊('81年)の初参加以来、10度を超す観測隊経験を持つベテラン研究者。第58次南極地域観測隊では隊長を務めた。研究分野は地質学で、主に南極の岩石や鉱物を研究。


1月の昭和基地は1年でいちばん賑やかな時期

ーー「南極観測隊」って、毎年編成されているんですよね。観測隊の皆さんは、南極で何を観測しているんですか?

本吉:気象、電離層、潮汐、測地などの定常観測に加えて、プロジェクトによってオーロラ、大気、地質や生物の調査もしますので、観測対象はじつに多種多様です。最近だと1045本のアンテナを立てて、上空500kmの大気の動きを探るなど、先端技術を使った新しい観測もどんどん生まれています。

ーー?? 難しくてよく分かりませんが、スゴいです! ということは、観測隊のメンバーは皆さん研究者なんですか?

本吉:いえいえ。研究者だけで南極に行っても、そこで生活していくことはできません(笑)。観測隊員は大きく「観測系」と「設営系」に分かれていて、観測系は観測や研究が目的の各分野のスペシャリストたち。設営系は基地や機械などの設備を担当するエンジニアに加えて、お医者さん、コックさんというように、多くの職種の方々で構成されています。

ーーそうなんですね。今、観測隊は何人くらいいるんですか?

本吉:今南極へ行っている第59次隊で言うと、越冬隊が32名、夏隊が41名の計73名です。さらに同行者が26名いるので、総勢は99名ですね。

第59次南極観測隊のみなさん

ーー大所帯なんですね。ちなみに「越冬隊」と「夏隊」って、何が違うんですか?

本吉:滞在期間が違います。一年を通じて南極で過ごすのが越冬隊で、12月末から2月中旬まで滞在するのが夏隊です。今はちょうど越冬隊の引き継ぎ時期なので、昨年末に到着した第59次隊が第58次隊と共に生活しながら引き継ぎをしている真っ最中です。さらに同行者もいますから、昭和基地が一年でいちばん賑う時期ですね。

ーー「同行者」というのは何ですか?

本吉:夏隊に同行するメンバーで、教員や新聞記者、大学院生、海外の研究者などで構成されています。

ーー学生さんもいるんですね。もしかするとキマリたちのように女子高生が参加できる可能性もあったりしますか?

本吉:う〜ん(笑)。現実では、残念ながらキマリたち高校生は難しいでしょうね。彼らの目的はあくまで研究で、自分の学位論文のテーマとして南極でのフィールドワークに同行するというケースがほとんどなんですよ。それを考えるとちょっと……。

ーー残念! これまでの最年少記録って何歳ですか?

本吉:設営系のエンジニアとして参加した男性の「20歳」というのが最年少記録ですね。逆に最高齢記録は、タロ・ジロで有名な第1次隊で隊長だった永田武さんが持っていて、同行者として参加した際の年齢が「72歳」でした。

永田武さん

ーー72歳! 南極での生活って、高齢の方でも耐えられるようなものなんですか?

本吉:過酷な環境ではありますが、身体に対してそこまで極端な負担が掛かるわけではないんです。ただやはり高齢になればなるほどケガや病気のリスクは高まりますから、今現在は、隊員の年齢上限としては「60歳」というのをひとつの目安にしています。

ーーあれ? でも本吉さんは62歳で第58次隊の隊長を務めていますよね?

本吉:そうなんです。ですので隊員としては僕の「62歳」が最高齢記録です。あんまり言いたくはないんですが(笑)。

ーーそれに最近は女性の観測隊員も増えているんですよね。作中でも、女性の観測隊員がでてきますし。

本吉:そうですね。第58次隊の越冬隊では33名のうち6名が女性です。それに今年の11月に出発する第60次隊の夏隊長は女性に決まりました。性別を問わず、適性がある方が抜擢されます。

ーーそうなんですね。肉体的に男性じゃないと無理なのかと思っていました。

本吉:全然関係ないですよ。隊員の中には女性よりも体力のない男もけっこういますから。

女性が増えたことで、昭和基地でも女性専用エリアの新設などが進められている。その新エリアオープンセレモニーでテープカットをする隊員。

ーー(笑)観測隊員の皆さんは、いったいどのように選抜されているんですか?

本吉:主幹が国立極地研究所(極地研)ですので、観測系には必ず極地研の職員が含まれます。所内で南極に行っていない研究者はほんのわずかですね。ほかにも気象庁や海上保安庁、国土地理院、情報通信研究機構、それに大学や研究機関などからも研究者が参加します。設営系は民間企業から参加するケースも多いですが、それぞれ社内で選抜された方々ばかりですね。

ーー一般人が参加できるような公募はあるんですか?

本吉:お医者さんとコックさん、それに観測系の一部は極地研が毎年公募していますよ。

ーーそうなんですね。どのくらいの方々が応募されるんですか?

本吉:それぞれで10名以上の応募はありますから、倍率としてはけっこう狭き門かもしれません。それなりに高い職能は求められますが、誰にでもチャンスはあるとは思いますよ。アニメを見て観測隊に興味が湧いた方は、ぜひチャレンジしてみてください。

ーー南極に行ける可能性が誰にでもあると思うと夢が広がりますね。今日はありがとうございました。

写真協力:国立極地研究所

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