宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

STAGE11

昭和基地での生活について 
観測隊員さんに聞きました!

小林正喜さん

(プロフィール)
第57次、第59次南極観測隊に機械担当として参加したベテランメカニック。第57次は昭和基地、第59次は先遣隊としてドームふじ基地に滞在し、つい先日帰国したばかり。


第二夏宿の環境は過酷!? 昭和基地の環境格差とは?

ーーアニメ第10話、第11話では昭和基地での生活が描かれています。小林さんは初めて昭和基地に入った際はどんな印象を持たれましたか?

小林:率直に言うと、想像と違っていてビックリと言うか、拍子抜けしましたね。

ーーえ? それはどういう意味ですか?

小林:南極と聞けば、辺り一面が雪と氷で閉ざされた世界を想像するじゃないですか? 「しらせ」での航海中もそんな景色を見てきたわけですし。でも実際にヘリで基地に下り立つと、辺り一面は土で、あちこちに水溜まりがあって、そこをトラックが往来しているようなところなんですよ。何かの手違いで山の中の建設現場に来ちゃったのかなと思ったくらいです(笑)。

夏の時期の昭和基地の様子

ーー意外と普通の景色なんですね。

小林:到着は夏なので、沿岸部は氷が溶けているんですよね。「想像していた景色と違う」というのは、初めて南極に行った人が感じる「あるある」だと思います。

ーーそうなんですね。アニメでキマリたちはレークサイドホテル(夏隊用の宿舎)ではなく個室を与えられましたが、実際はどうなんでしょうか?

小林:やはり女性隊員は個室になることがほとんどですね。ただ、しらせの女性乗組員は例外で、観測隊員ではなく自衛官ということで、他の男性隊員と同じくレークサイドホテルに滞在します。もちろんプライバシーなどは守られますけどね。

ーー小林さんもレークサイドホテルだったんですか?

小林:いや、僕は「第二夏宿」と言われる宿舎だったんです。レークサイドホテルは「第一夏宿」なので、設備もよくて快適なんですが、第二は……まあ厳しいものですよ。二段ベッドがふたつある4人部屋なんですが、とにかく狭くて荷物を置くスペースがない。さらにはトイレもない(笑)。ブリザードに見舞われると建物から出れなくなるのですが、その時にはペールトイレという災害時などに使う簡易トイレを使用していました。もっとも夏隊は基地での滞在期間が約40日と短いので我慢はできるんですが、工事現場の飯場のほうがまだ快適ですね。越冬隊は個室で快適、第一夏宿もまあまあ快適、でも第二夏宿は……。

第二夏宿

ーー(笑)なかなかすごい環境ですね。小林さんは昭和基地では主にどんな仕事をされていたんですか?

小林:僕は機械担当で、クレーンの操縦と車両の整備、修理が主な仕事で、あちこちの現場を渡り歩いてかなり忙しかったです。

ーー昭和基地に着いたら、まず行うのは物資輸送ですか?

小林:基本的にはそうですが、57次の際は着いてから3日間はずっと壊れた雪上車の修理をしていました。それが終わったらしらせから基地への物資輸送です。アニメでも描写されていますが、着いてからしばらくは輸送や土木作業でバタバタします。

ーーアニメでは観測隊員みんなで作業していましたが、実際にも全員で作業されるんですか?

小林:しますね。到着してからしばらくの間は、研究者もお医者さんもコックさんも、越冬隊も夏隊もいっしょに仲良く肉体労働に励むんですよ。この時期だけは基地にたくさんの隊員たちがいますから。マンパワーが必要な作業はこの時にしかできまないんです。今回の59次で言うと「基本観測棟」の建設が大きかったですね。

ーー「基本観測棟」ですか?

小林:気象棟や地学棟など、いくつかある観測棟を統合する建物で、外側が今年の2月に完成したばかりですが、これも全員の力で作りました。

ーーそんな大規模な建築物、大工さんじゃなくても作れるものなんですか?

小林:もちろん難しい工程は専門家が行いますが、建築経験のない隊員でも短工期で施工できるように工夫されているんですね。流石に南極に何十人もの職人さんを連れて行くわけにはいきませんから。

外側が完成した基本観測棟。内装と気象観測の放球用デッキの設置し、第61次で完成予定

昭和基地の娯楽はお酒。南極氷の美味しさに飲みすぎ注意!

ーーちなみに休日などはありますか?

小林:夏隊にはありませんね(笑)。というのも、天気が荒れると屋外での作業ができなくなってしまうので、晴れている日はとにかく作業を進めます。だから荒天時が休日という感じですね。

ーーアニメではドラム缶を叩いて新年を祝う年越しイベントなどが描かれていましたが、実際にも行うんですか?

ドラム缶の鐘で除夜の鐘をつく

小林:やりますね。ドラム缶を叩くのも同じです。あと正月には「裸神輿」というお祭りイベントもやります。

ーーもしかして、裸で神輿を担ぐんですか?

小林:そう、読んで字の如くです(笑)。やっている隊員たちは楽しそうなんですが、僕は嫌でずっと逃げ回っていました。

ーー観測隊の方々は何かと裸で練り歩くのが好きなんですか?

小林:男の本能と長年の伝統なんでしょうね。正直、僕にはさっぱり意味が分からないんですが(笑)。

ーー小林さんの日々の娯楽は何でしたか?

小林:これはみんなそうですが、やっぱりお酒を飲んでワイワイと騒ぐことが多いですね。夏隊がいる時期はみんなが肉体労働していますから、削りたての南極氷で飲むお酒が美味しいんですよ。ついつい飲みすぎて翌日に差し支える隊員もいましたね。まあ、僕もそのひとりだったんですけど(笑)。

ーー貴重なお話、ありがとうございました。



写真協力:国立極地研究所

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