宇宙よりも遠い場所

SPECIAL

STAGE01

「しらせ」ってどんな船なの? 
ベテラン幹部に聞きました!

2等海佐 岳本宏太郎

防衛省 海上幕僚監部 防衛部 運用支援課 南極観測支援班長

(プロフィール)
第56次、第57次、第58次の南極地域観測協力行動に参加。これまでに運用長、航海長、副長を歴任しており、南極の海を知り尽くすベテラン海上自衛隊幹部。


「しらせ」は海上自衛隊が運用 一般公開もされています!

ーー第1話の最後で、キマリたちは広島の呉港に砕氷艦「しらせ」を見学しに行きます。「しらせ」は実在する船なんですよね?

岳本:「しらせ」は実際には海上自衛隊が運用している砕氷艦で、毎年、南極地域観測隊の皆さんと物資を乗せて南極へと出港しています。日本の南極観測船としては4代目に当たり、老朽化した先代「しらせ」の任務を引き継ぐ形で2009年から就役しています。

ーー一般公開もされているんですよね。

岳本:しています。アニメでは一般公開が4月になっていますが、実際の「しらせ」は毎年4月に日本に帰港すると、すぐにドッグに入って船体の修理をします。その後、海上訓練を兼ねて、夏から日本を一周しながら各地に寄港します。一般公開されるのはそのタイミングですね。11月に日本を出港した後は誰の目にも触れませんから、どんなことをしているのか、どんな船なのかを広く知っていただくためにも、今や欠かせないイベントになっています。

しらせ一般公開の様子

ーー主にどんな方々が見学にいらっしゃるんですか?

岳本:家族連れから、マニアの方々まで本当に幅広いです。海上自衛隊の船だということを知らない人も意外といらっしゃいますね。

ーー皆さん「しらせ」のどんなところに驚かれますか?

岳本:やはり最初は船体の大きさに驚かれる方が多いですね。さらに「しらせ」は艦橋の幅が広く、28mもあるんです。これは新幹線の車両一台分くらいで、他の船に比べてもかなり幅広で、そこは皆さん「スゴい」とおっしゃいますね。ほかにも観どころはたくさんありますから、今年の秋はぜひお近くの寄港地に見学にいらしてください。

厚さ1.5mの氷を砕きながら進む「しらせ」 その恐るべき「ラミング」航行とは?

ーーところで「砕氷艦」と言う名前から推測すると、氷を砕いて進むことのできる船ということでしょうか。

岳本:そうです。「しらせ」の性能は、厚さ1.5mの氷に覆われた海域を、氷を砕きながら止まらずに進んでいけるというものです。

ーースゴいパワーなんですね。でもそれ以上の厚さの氷がある時はどうするんですか? 引き返す?

岳本:いえいえ。その場合でも「ラミング」というやり方で砕氷して進むことができるんですよ。

ーー「ラミング」ですか?

岳本:氷に阻まれて船が進まなくなったら、200〜300mほど後退して、それから最大馬力で突っ込みます。

ラミング中のしらせ

ーーええ!? シンプル!

岳本:それが問題なくできるからこそ「砕氷艦」なんですよ。ラミングをする回数はその年次によって違いますが、2014年に日本を出港した第56次南極地域観測航海では、約5400回のラミングを記録しています。

ーー5400回ですか!?

岳本:その時は私も運用長として「しらせ」の航海指揮を執っていたんですが、私が直接操艦しただけでも1000回以上はラミングしたと思いますね。

ーーそれだけ分厚くて手強い氷が行く手を塞いでいたと。

岳本:それもありますが、調査目的のためでもあります。南極大陸に接岸するだけならもっとラミングを抑えることもできますが、燃料に余力があれば新しいエリアを調査したりもするんです。特に2代目「しらせ」は砕氷性能が高く、先代では行けなかったところにも分け入っていく事ができますから。

ーーそれはまさに冒険ですね。ラミング時というのは、やっぱりかなり揺れるんでしょうか。

岳本:揺れというよりも、衝撃と言ったほうが近いかもしれません。厚さ1.5m以上の氷を砕氷航海しているときというのは、例えるならオフロード車で荒道を走っているような感覚で、そこそこ激しい揺れという感じです。それがラミングになると、ガンガン、ドンドンというような衝撃と音に変化します。でも慣れてしまえばたいしたことはありませんよ。それが日常ですから、乗組員も観測隊員も平然としていますね。

ーーそんなラミングが、何千回と繰り返されるわけですね。

岳本:一度のアタックで砕ける氷はわずかで、なかなか進まないんです。頑張っても一日で100mほどしか進めない日もあり、目的地を目前にしながら2週間かかったこともありますね。「氷さえ無ければ1時間で着くのに!」という歯がゆい気持ちに耐えながら、慎重に操艦するよう心がけていました。

ーー一日100m! そんなにゆっくりなんですね。

岳本:ラミングしながら必死に走る「しらせ」の横を、よちよち歩きのアデリーペンギンたちが悠々と追い越していく光景を何度も目にしました(笑)。可愛くて癒されるんですが、ちょっとだけ複雑な気持ちになりますね。

ーーアデリーペンギンよりも遅いと(笑)。ちなみに第59次の観測隊をのせた「しらせ」は昨年(2017年)の12月23日に無事南極大陸に接岸しましたね。

岳本:一昨年(2016年)の接岸は28日だったので、かなり早いです。昨年多くの氷が南極から流れ出たこともあり、航海はかなりスムーズだったみたいですね。それこそ、今年はラミングも27回しかしていないんですよ。

ーー年によってまったく違うんですね。貴重なお話、ありがとうございました。


■「しらせ」基本DATA

大きさ 長さ138m×幅28m×深さ15.9m×喫水9.2m
基準排水量 12650t
巡航速力 15ノット
軸出力 30000馬力
定員 乗組員179名、観測隊員等80名
進水 2008年4月16日
就役 2009年5月20日

写真協力:海上自衛隊

PAGE TOP